帳簿と記録の義務

介護タクシーの教育記録 — マニュアルは渡されていた。義務だとは、読めなかった

日々の記録が、点呼と、点検と、運行だけではないと知ったとき、私はもう一つ、思いがけないものに行き当たりました。「教育」です。運転する者に対して、指導し、監督する。それを、事業者が行わなければならない。

ここでも、私は同じところでつまずきました。私は一人です。運転するのも、その運転者を教育するのも、同じ私。一人でやっているのに、いったい誰が、誰を教育するというのか。

書いているのは、関東で介護タクシーを営む現役の個人事業主です。

渡されていたのに、読めなかった

正直に言うと、この教育のことは、まったく知らなかったわけではありませんでした。

許可をもらったとき、私はたくさんの書類を受け取っています。その山の中に、運転者への指導監督のマニュアルの抜粋のような資料が、確かにありました。ざっと目は通しました。何が書いてあるかも、だいたいは把握したつもりでいました。

でも、そのときの私には、読み取れなかったのです。そこに書かれていることが、「必ずやらなければならない義務」なのか、それとも「よければ参考にしてください」という案内なのか。文面からは、その区別がつかなかった。だから私は、参考資料のほうだと思い込んで、脇に置いてしまっていました。

それが義務であり、記録も、年間の計画まで求められるものだと知ったのは、帳簿を一つずつ調べていく中でのことでした。答えは、最初から私の手元にあったのです。ただ、それを義務として読む力が、私になかった。誰も教えてくれなかった、という以前に、渡されていたのに読めていなかった。そのことのほうが、私にはこたえました。

一人で、誰が誰を教育するのか

点呼のときにも感じた、あの違和感がまた戻ってきました。一人しかいないのに、教える側と教わる側を、自分で兼ねる。教育というより、ひとり芝居のように思えて、正直、意味があるのかと疑いました。

けれど、中身を調べていくうちに、その受け止め方は変わっていきました。

指導すべきとされている内容は、法令のこと、安全のこと、そして利用者への向き合い方でした。それは、まさに私がこの数か月、必死に調べ続けてきたことそのものだったのです。教育とは、誰か別の人から教わることだとばかり思っていました。でも、そうではなかった。自分が学び続けていることを、きちんと形にして残す。それが、ここで言う教育なのだと、ようやく飲み込めました。

年間計画は、参考ではなかった

もう一つ、私が読み違えていたものがあります。年間の指導計画です。

最初は、これも「あれば体裁がいい」程度の、任意の資料だと思っていました。一年をとおして、どういう教育をいつ行うかを書き出しておく——そんなものは、几帳面な人が作ればいいものだ、と。

けれど、調べてみると、これも作るべきものとして定められていました。任意の心がけではなく、備えておくべきものだったのです。参考資料だと思っていたものが、実は義務だった。これで、二度目です。手元にある紙の重さを、私はまた、見誤っていました。

特別な指導も、後から知った

さらに、もう一つありました。新しく運転を始める者に対して行う、特別な指導という枠です。

そして、その対象が誰かといえば、ほかでもない、新規で始めたばかりの私自身でした。経験のない状態で運転者になった人は、より手厚く指導を受ける必要がある。その「経験のない新規」に、私はぴたりと当てはまっていたのです。これもまた、調べて初めて知ったことでした。

知らなかった期間のことは、知らなかった、という事実として、消せません。だからこそ、気づいた時点で、私はあらためて体系立てて学び直し、実施した記録を残しました。過ぎた時間は戻せなくても、そこから先を、正しく積み直すことはできる。そう考えました。

学んでいることと、記録があることは、別

最後に、いちばん正直なところを書いておきます。

学びの中身だけで言えば、私は今、求められている以上のことを学んでいる自信があります。毎日のように法令を調べ、一次資料にあたり、自分の頭で確かめている。知識が足りていないとは思いません。

でも、その日々の学びを記録として残せているかというと、まだ形になっていないのです。どれだけ深く学んでいても、それを示すものがなければ、外から見れば「していない」のと変わらない。これは、帳簿の世界に足を踏み入れて、私が学んだいちばん大きなことでした。したこと以上に、したと示せることが問われる。

だから私は今、この学びを、毎月の指導という形に置き直そうとしています。まだ途中です。胸を張って「できています」とは、言えません。それでも、学びと記録は別のものだと分かった以上、その二つを、ようやく重ねにいこうとしている——それが、今の私の現在地です。

次は、起きてほしくはないけれど、備えておかなければならないこと。事故が起きたときの記録について書いていきます。

※この記事は私自身の体験を記したものです。指導監督の内容や記録・計画の正確な要件は、管轄の運輸支局や国土交通省の公式情報でご確認ください。