開業してからの現実
介護タクシーのリピーターは「安いから」ではなかった — 半年やって見えた、また呼ばれる人の共通点
介護タクシーを半年やってみて、また呼んでくれる方には、ある共通点があると気づきました。最初は「安くしたから、また使ってくれるのだろう」と思っていました。でも、観察していくうちに、どうもそうではないらしい、と分かってきたのです。
リピーターになってくださる方を分けているのは、価格の安さではありませんでした。もっと別の、一言で言えば「価格以上だと感じてもらえたかどうか」という感覚のように思います。今日は、半年やってたどり着いたその見立てを、正直に書いてみます。書いているのは、関東で介護タクシーを営む現役の個人事業主です。
喜ばれても、リピーターにならないことがある
最初に、自分の思い込みが崩れた話から。
ある依頼の前、私はいつも以上に車内を念入りに掃除して、ぴかぴかの状態でお迎えに上がりました。乗ったご本人もご家族も「すごく綺麗ですね」と喜んでくださって、私は手応えを感じていました。これはきっと、また呼んでもらえるな、と。
ところが、その方からの次の依頼は来ませんでした。あとから振り返って思うのは、喜ばれてはいたけれど、あの「綺麗すぎる車内」は、もしかすると逆効果だったのかもしれない、ということです。あまりにきちんとしていると、かえって「汚してしまわないか」と気を使わせてしまう。実際、乗っているあいだ、どこか緊張して遠慮されているように見えました。満足の声が上がることと、また呼んでもらえることは、必ずしも同じではない——。最初のつまずきで、私はそう気づかされました。
価格は、絶対額では決まらない
次に崩れたのが、「安ければ満足してもらえる」という思い込みです。
たとえば、退院のときに軽い気持ちで使われる方。こういう方には、かなり抑えた料金を提示しても「高いね」と言われることがあります。一方で、料金を強く気にされていた方が、3万円を超えることもあるような搬送のあとで、「思ったより安くてよかった」と言ってくださったこともありました。
金額だけ見れば、後者のほうがずっと高い。なのに満足してもらえて、前者は安くしても不満が残る。この差はどこから来るのか。考えてみて、私はこう思うようになりました。満足を決めているのは価格の絶対額ではなく、受け取ったものとの落差なのだ、と。「払った額に対して、それ以上のものを受け取れた」と感じられたかどうか。価格以上だと思えたときに、人はまた呼んでくれる。安いか高いか、ではなかったのです。
高価なものだからこそ、大切に扱う
では、その「価格以上」は、どうやって生まれるのか。ここからは私の推論です。
介護タクシーは、正直に言えば高価な移動手段です。普通のタクシーや自家用車に比べれば、決して安くはない。それでも、その費用をかけてでも運ぼうとするご家族は、その患者さんを、それだけ大切に思っているのだと思います。お金をかけてでも、きちんとした形で運んであげたい——その気持ちがあるからこそ、介護タクシーを選んでくださる。
だとすれば、ご家族にとっての一番の満足は、車が綺麗なことでも、料金が安いことでもないのかもしれません。自分が大切に思っているその人を、事業者もまた大切に扱ってくれること。そこにこそ、ご家族は「価格以上」を感じるのではないか。私はそう見ています。高価なものだからこそ、運ぶ相手を丁寧に、大事に扱う。当たり前のようでいて、たぶんこれがリピーターの核心なのだと思います。
脇役に徹する
その考えにたどり着いてから、私が具体的に気をつけているのは、意外かもしれませんが「しゃべりすぎないこと」です。
ご本人やご家族への声かけは、もちろん大切にします。挨拶や、体調を気づかう一言、降りるときのねぎらい。そこは丁寧に。けれど、搬送のあいだ、私のほうから余計な世間話を続けることはしません。移動している時間は、患者さんとご家族のための時間だと思うからです。話しかけられれば、もちろん応えます。でも、こちらから多くを語ることはしない。主役は患者さんとご家族で、私は運ぶ脇役。その距離感が、結果として落ち着いた時間を生むように感じています。
ちなみに、到着時間を正確に守ることも当然心がけていますが、これは満足を生むというより、不信を生まないための最低条件だと考えています。退院の段取りやご本人の体調を思えば、時間のずれはそのまま患者さんの負担になりかねない。守って当たり前、遅れれば一気に信頼を失う。そういう性質のものです。
また呼ばれる、ということ
半年やって見えてきたのは、リピーターのベースにあるのは、結局「嫌な思いをしなかった」という、地味な事実だということです。そのうえに「価格以上だった」という感覚が乗って、初めて「またあの人に」となる。派手な何かではなく、不快のなさと、丁寧さの積み重ね。
依頼をくださる相手は、ご本人だったり、ご家族だったり、ケアマネジャーさんや訪問看護の方だったりと、さまざまです。そのなかで私が一番うれしいのは、ご本人からの指名です。普通のタクシーでも行けるはずの場面で、わざわざ高価なうちを選んで、名前で呼んでくださる。それは「価格以上」を感じてもらえた、何よりの証なのだと思います。まだ半年。でも、また呼ばれるとはどういうことか、その輪郭だけは、少し見えてきた気がしています。