開業の手続き
介護タクシーの運賃は自由に決められない — 公示の「自動認可運賃」から選び、時間制でメーターを不要にした実体験
介護タクシーの開業準備をしていて、いよいよ避けて通れなくなるのが「運賃をいくらにするか」です。私もここで一度、手が止まりました。普通のタクシーのように、車に付いたメーターの数字で決めるものだとばかり思っていたのです。
ところが、調べてみると違いました。介護タクシーの運賃には、あらかじめ国の側で公示された「運賃表」があって、開業する側は、その表の中から自分の運賃を選んで申請する——そういう仕組みだったのです。ゼロから自由に値付けするのではない。この記事は、その「公示された運賃表から運賃を選ぶ」という制度の話と、私が開業時に時間制を選んだときの実体験です。書いているのは、関東で介護タクシーを営む現役の個人事業主です。
運賃は「自由に決める」のではなく「公示表から選ぶ」
まず大前提です。一般乗用旅客自動車運送事業——介護タクシーもこれに含まれます——の運賃と料金は、道路運送法第9条の3により、国土交通大臣の認可を受けなければならないと定められています(この認可の権限は、実際には地方運輸局長に委任されていて、申請の窓口も管轄の運輸局になります)。つまり運賃は、事業者が勝手に決めて貼り出せるものではなく、認可制なのです。
とはいえ、開業のたびに一から原価計算をして審査を受ける——というのは、申請する側にも審査する側にも大変です。そこで用意されているのが「自動認可運賃」という仕組みです。関東運輸局は「一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー)の自動認可運賃等について」という運賃表を公示していて、そこに示された上限から下限までの範囲内の運賃を選んで申請すれば、原価計算書の添付を省略でき、速やかに認可される、という流れになっています。
介護タクシー(福祉輸送)の運賃も、この公示表を参照して決めます。福祉輸送のケア運賃のために別の運賃額表が用意されているわけではなく、見るのは同じ自動認可運賃の公示表です。申請様式に「自動認可ケア」といった名称が出てきますが、これは運賃の額が別物という意味ではなく、あくまで申請の様式(フォーマット)の呼び名です。
ひとつ注意があります。この公示は頻繁に改正されます。私が確認した時点での直近改正は令和8年5月22日でした。額も改正で動くので、実際に申請するときは、必ず最新の公示を管轄の運輸局で確認してください。この記事の数字も、あくまで執筆時点のものです。
運賃表の構造 — 3つの方式と「上限〜下限の幅」
公示表の中身は、最初は少し取っつきにくいですが、構造をつかむと読めます。
運賃の方式は、大きく3つあります。距離制運賃(走った距離で決まる)、時間距離併用制(距離と時間を組み合わせる)、そして時間制運賃(拘束した時間で決まる)です。さらに車種ごと——特定大型車・大型車・普通車——に表が分かれています。
そして肝心なのが、額が一点に決まっているのではなく、「上限運賃」から「下限運賃」までの幅を持っていることです。その幅の中が、AランクからB・Cと下がっていく形で刻まれていて(Aが上限です)、事業者はどの方式の、どのランクを選ぶかを決めて申請します。
たとえば、ある地区の普通車・距離制を見ると、初乗運賃は上限(Aランク)の600円から下限の540円まで、10円刻みのランクで定められていました(600円・590円・580円……と下がっていきます)。「初乗はいくらにしなければならない」と一点で決まっているのではなく、この幅の中から選ぶ——というのが実感としての運賃の決め方です。
なお、この額は地区ごとに違います。公示は地区別に分かれていて、同じ普通車でも地区が変われば額が変わります。だからこそ、自分の地区の最新の公示額がいくらなのかは、思い込みで進めず、管轄の運輸局で確かめるのが確実です。
私は、時間制を選んだ
3つの方式のうち、私が開業時に選んだのは時間制運賃でした。
理由は二つあります。ひとつは、介護タクシーの仕事の性質です。通院の付き添いのように、現地で待っている時間が長く発生する仕事が多い。走った距離だけで料金が決まる距離制よりも、拘束した時間で考える時間制のほうが、自分の仕事の実態に合うと感じました。
もうひとつは、現実的な事情です。時間制を選べば、タクシーメーター器が要りません。距離制を選ぶと、公示の適用方でも距離の算出は運賃メーター器によるとされていて、メーター器を積む必要が出てきます。これには設置のコストがかかる。開業時の私にとって、これを避けられるのは大きいことでした。実際、私は申請の過程で、いったん資金計画に入れていたメーター器の費用を、時間制で行くと決めたことで削ることになりました(その経緯そのものは、申請の補正で実際に何が起きたかに書いています)。
ここで、もう一つ実体験を書いておきます。時間制運賃は、公示では**「30分」を単位**として定められています。ただ私は、30分刻みだと、ちょっとした送迎でも30分単位で加算されてしまい、利用者にとってかえって不親切ではないか、と気になりました。そこで、運賃を決める前に運輸局へ電話で相談してみたのです。
すると、30分より細かい単位で刻むことも、一定の範囲で認めてもらえました。条件として案内されたのは、「公示の上限運賃から下限運賃までの幅に収まること」。つまり、刻み方を細かくしても、総額がその幅の中にあれば問題ない、という考え方でした。これはあくまで私の場合に電話で得られた個別の回答で、どこかに文章で示された決まりを確認したわけではありません。運輸局の裁量による対応かもしれず、「誰でも細かくできる」と一般化できる話ではないと思っています。ただ、ここで私が言いたいのは別のことです。公示表だけを眺めていると運賃は決まりきって見えるけれど、電話で相談してみると、範囲内で柔軟に対応してもらえる余地がある、ということ。制度の表面だけで諦めず、一本電話を入れてみる価値はあります。
→ 運輸局への電話のかけ方 — つながる時間帯・第一声の型・介護タクシー開業の実例2つ
介助料は、運賃とは別に自由に決められる
運賃の話をすると、よく混同されるのが「介助料」です。乗り降りの介助など、移動そのものに付随するサービスへの対価ですが、これは運賃とは扱いがまったく違います。
介助料のような、**旅客の運送に直接伴うものではない料金は、「認可も届出も不要」**とされています。これは国の通達(国自旅第170号)に、はっきりそう書かれています。つまり運賃が公示表の枠の中で決まるのに対して、介助料は事業者が自分で自由に設定できる領域なのです。
ここは制度の作りとして知っておくと、運賃設計の見通しがよくなります。運賃は「公示の幅の中から選ぶ、動かせない部分」、介助料は「自分の考えで組み立てられる、自由な部分」。この二つを分けて捉えると、自分のサービスのどこで対価をいただくのか、という設計がしやすくなります。私自身も、運賃の枠は枠として受け入れたうえで、自由にできる部分をどう考えるか、という順番で組み立てていきました。
ただし、具体的にいくらに設定したか——という実額の話は、この記事の範囲を超えます。値決めの考え方と、後にそれをどう見直したか(値上げの実体験)は、別の記事にゆずります。
決めた運賃は、守る義務がある
もう一点、地味ですが大事なことを。一度認可を受けた運賃は、そのとおりに収受する必要があります。気分で勝手に値引きしたり、割増したりすることはできません。
これは「収受義務」という独立した条文がぽつんとあるわけではなく、認可制(道路運送法第9条の3)と、それを担保する罰則の組み合わせで成り立っています。具体的には、同法第98条第三号が、認可を受けないで、あるいは認可を受けた運賃によらないで運賃を収受したときを、100万円以下の罰金の対象としています。古い解説に「50万円以下」と書かれていることがありますが、現行は100万円以下です。
脅すような話に聞こえるかもしれませんが、裏を返せば、きちんと認可運賃で営業している限り、価格で不当にたたき合う消耗から制度的に守られているということでもあります。決めた運賃を守ることは、自分の事業を守ることでもあるのだと、私は受け止めています。
開業時はこう決めた
こうして私は、開業時の運賃を「時間制・メーター器なし」で決めました。これがすべての正解というわけではなく、あくまで開業時点の、私の事業に合った選び方です。
事業が育っていけば、運賃の方式を後から足すこともあります。私自身、その後に車を増やすタイミングで、距離制を加える手続きをとりました(これは開業時の話とは別の手続きなので、別の機会に書きます)。
では、こうして決めた運賃で実際に営業してみて、どうだったのか。安く始めたことが吉と出たのか、それとも——。その「決めた運賃で走ってみた先の話」は、値上げの実体験として別の記事にまとめます。
注意書き
- 本記事は筆者個人の経験(関東運輸局管内・個人事業主)にもとづくものです。運賃・料金の制度や公示額は地域・時期により異なり、改正も頻繁です。必ず最新の公示と管轄の運輸支局・運輸局でご確認ください
- 時間制運賃の刻みに関する記述は、筆者が運輸局へ電話相談して得た個別の回答にもとづくものであり、すべての事業者に同じ取扱いが保証されるものではありません
- 一次情報の参照(いずれも2026年6月18日確認):
- 道路運送法(昭和26年法律第183号)第9条の3(運賃・料金の認可)、第98条第三号(認可を受けた運賃によらない収受への罰則): https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000183
- 関東運輸局「一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー)の自動認可運賃等について」(運賃表): https://wwwtb.mlit.go.jp/kanto/content/000274834.pdf
- 国自旅第170号「福祉輸送サービスを行う一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金について」(平成18年9月25日。介護料金等は認可も届出も不要の旨)