開業してからの現実
介護タクシー開業で続かない人の共通点 — 真面目に準備した人ほど見落とす「見る順番」
介護タクシーを始めるための手続きは、ひととおり踏みました。車両も揃えました。準備の段階で手を抜いたつもりはありません。それでも、半年たったいまも、私はまだ生存線に届いていません。
不思議なものです。「準備不足だったから」では、この状況は説明がつかない。やるべきことはやったのに、続けていくだけの依頼が安定して来ない。半年やってみて、続く人と続かない人を分けているものが、少しだけ見えてきた気がします。これは成功談ではありません。まだ途中にいる人間が、同じ場所に立つ人へ「見る順番」を共有するだけの話です。書いているのは、関東で介護タクシーを営む現役の個人事業主です。
真面目な人ほど、手続きに全力を注いでしまう
まず気づいたのは、開業準備そのものが、想像以上に消耗する、ということです。
申請の書類は初めて見るものばかりで、何度も役所や運輸局に確認しながら、ひとつずつ埋めていく。車両を選び、資金を整え、施設の要件を満たす。真面目な人ほど、ここに膨大なエネルギーを注ぎます。私もそうでした。そして——許可が下りた瞬間に、力尽きてしまう。
ところが、許可はゴールではありません。スタートラインです。本当の勝負は、そこから市場と向き合うところから始まる。なのに、手続きを完璧にやり切った頃には、その先で踏ん張る体力も気力も、残っていないことがある。準備に全力を出し切ること自体が、皮肉なことに、最初のつまずきになりうるのです。
見誤り① 市場を見ずに、自分が始めたい場所で始める
次に見えてきたのが、「どこで始めるか」を、市場ではなく自分の都合で決めてしまうことです。
多くの人は、「自分が住んでいるから」という理由で営業エリアを決めます。私もそうでした。けれど、移動に困った人を支える受け皿が幾重にも整っている地域では、後発の介護タクシーが入る隙間は小さい。人が多い場所だから依頼も多い、とは限らないのです。逆に、受け皿の薄い地域では、同じ仕事でも出番がずっと大きくなる。
「自分がここにいるから」でエリアを決めると、構造的に依頼が来にくい場所で戦うことになりかねない。これは努力の量で埋まる差ではなく、立つ場所の側の問題です。私はここを、始めてからようやく考えるようになりました。
なぜ場所でこれほど差が出るのか、その構造は別の記事で書いています。
見誤り② 価格で勝とうとする
二つ目は、価格です。安くすれば選ばれる——そう思って低い価格で始める人は多い。かつての私も、その一人でした。
でも、安さで来た人は、安さで去っていきます。価格で選ぶ客は、時間にもシビアで、こちらは消耗するばかりで伸びない。安いことが、思っていたような武器にはならないのです。むしろ価格は、売上の多寡だけでなく、自分がどんな客と付き合い続けるかを決めている。安い価格は安い関係を呼び、適正な価格は、こちらの仕事に価値を置いてくれる相手を連れてくる。そう感じるようになりました。
見誤り③ 自分の強みが届く場所を探していない
そして三つの中で、いちばん時間がかかったのがこれです。量でも価格でもなく、自分にしか扱えない領域があるはずだ、と気づくまでに、半年かかりました。
たくさん配れば届くわけでも、安くすれば選ばれるわけでもない。どちらにも裏切られたあとで、ようやく「自分だからこそ受けられる仕事は何か」という問いの前に立てた。誰がやっても同じ送迎なら、結局は数と価格の勝負に引き戻されてしまう。そこから抜ける道は、自分の強みが活きる領域の側にしかない——その手がかりが、半年かけてやっと見えてきたところです。
その「勝ち筋」をどう探しているかは、別の記事に書いています。
失敗は怠けではなく、「見る順番」の問題
こうして振り返って思うのは、続かないのは、怠けたからではない、ということです。むしろ真面目に準備をやり切った人ほど、つまずきうる。問題は努力の量ではなく、見る順番なのだと思います。
手続きを終え、車両を揃えてから、ようやく「さて、どこで誰に売ろう」と市場を見はじめる。この順番だと、いちばん大事な市場の見極めが、いちばん体力の残っていない最後に回ってしまう。本当は逆で、市場を見ながら手続きを進める——どこで、誰に、何を届けるのかを先に考えながら、準備を並行させていくのがいいのだと思います。
偉そうなことは言えません。私自身、その順番を間違えた側で、いまもまだ途中にいます。それでも、半年やって見えたこの「見る順番」だけは、これから始める人に、間違えてほしくない。同じ場所に立つ人へ、それだけは伝えておきたいと思いました。